HDD用の半導体

Hard Disk Drive(HDD)向けの半導体製品は、ビジネス面から、かなり特殊な分野です。

ビジネス面では、まずはHDDの圧倒的な出荷量の大きさがあります。2010年のHDDの出荷個数は6.5億台で、2012年の年間出荷台数は8億台に近づくのではないかと見込まれています。(Hitachi Global Storage Technologies (HGST)のホームページにある資料の10ページより) そして、2020年までに年平均で7~8%の成長が見込まれており、2010年代後半には10億台の大台にも達する見込みです。年間6億台というのはどれくらい凄いのでしょうか?このページによると、2010年のPCの年間出荷台数は3.3億台だそうです。また、こちらのページでは携帯電話の出荷台数は13億台です。6億台というのは、PCの2倍くらいで、携帯電話の半分くらいの量です。

次に、世界でたったの5社のメーカでこの6億台のHDDを製造しています。日本の東芝HGST, アメリカのWestern Digital (WD), Seagate, 韓国のSamsungです。HDDのメーカ数は、今後5社から減ることはあっても、増えることはありません。その理由は、HDDは典型的な装置産業であり、薄利多売のビジネスなので、新規参入するには莫大な初期投資が必要であり、参入障壁が非常に高いことです。(それ以前に、あと何年続くか分からないHDDに参入する酔狂なメーカはそもそも無いかもしれないけど) 5社で年間6億台なので、HDD向けの半導体メーカとしては、この5社のうちの1社に採用されれば、年間1.2億個 (=6億*0.2)、月当たり1000万個の出荷が見込めます。仮に、HDDメーカが2社購買をしたとしても、年に6000万個の出荷です。これでも相当に大きな数字です。特に、別の半導体ビジネスの分野での、特定顧客むけのシステムLSIでは、生涯生産量が数十K個とか100K個とかしかない場合もあることと比べると、HDD向けの出荷個数は群を抜いています。(その代わりに、単価は非常に安くなりますが・・) ところで、HDDメーカは、今後も5社体制のままなのでしょうか? WDとSeagateはHDD専業ですが、残りの東芝HGST, Samsungは総合電機メーカの一部門です。各電機メーカの経営方針の中でHDD部門の位置付けが大きく変化してしまうと、更なる再編が起こるかもしれません。

技術的な面からHDD向けの半導体製品を見てみます。実は、HDD専用の半導体製品は3種類しかありません。これ以外のHDDで使用されている半導体は、DRAM等の汎用製品です。

    • SOC (HDD業界では、HDDの内部で使用されるメインのLSIのことを、何故か"SOC"と呼んでいる。確かに間違いではないが、ちょっと違和感がある)
    • プリアンプ
    • モータ・コントローラ

SOCは、標準CMOSプロセスを用いたデジタルのシステムLSIですが、高度な信号処理を行うRead Channelと呼ばれるIPブロックが搭載されており、設計面からの参入障壁が高いです。プリアンプとモータコントローラは、アナログのICであり、バイポーラプロセスが必要です。
http://www.eetimes.com/design/power-management-design/4009580/Architecting-miniature-hard-disk-drives-for-battery-saving

まとめ HDD向けの半導体ビジネスは、技術的な参入障壁は高いですが、一旦製品がHDDに採用されると、年間に数千万個の出荷量が見込まれるという利点があります。ただ、今後は増大する出荷量に対応するために、信頼性や安定供給能力がさらに厳しくチェックされることから、新規にこの分野に参入するのはますます難しくなっていくと思います。

そのほかの参考資料