CMOSアナログ回路入門

本書は330ページあります。それなりに読みごたえがあります。それでも、CMOSアナログ回路設計の説明を本一冊に纏めるということには、そもそも無理があります。いくつかの内容についての説明では、導入-->結論までの中間をごっそりはぶいている箇所があります。例えば、フィードバックはアナログ回路設計における非常に重要な概念ですが、本書のフィードバック回路の2 port analysisの説明は非常に簡素であり、ごく簡単な例題の説明の後には「後は皆さんの応用力に期待したいと思います」というセリフで締めくくられています。また、数式を出来るだけ使わないというコンセプトで書かれたのだと思いますが、そもそもアナログ回路の動作は数学とは切り離せないものなので、数式を使わない説明というのは逆に分かりづらくなってしまっています。

最初にこの本を読んだときには「この結論がどうやって導かれたのか分からない」と真剣に考え込みました。今読み返してみると、その理由が分かります。そもそも、説明が書かれていない(紙面をさいていない)のです。たぶん、CMOS回路設計の初心者を対象として書かれた本だと思いますが、本当の初心者が読むと、ちゃんと理解できない可能性があります(説明を大幅にはっしょっている箇所があるので)。反対に、ある程度、経験や学習を積んでから、「ある分野について簡単に復習したい、もしくは、ちょっと調べものをしたい」という用途には良い本だと思います。ただ、しつこいですが: 本書を読んで内容が分からないと思った場合には、読者の理解力が足りないのではなく、「十分に説明がされていない」可能性が高いので、その分野の別の専門本をあたってみることをお勧めします。

それでも、本書は日本語で読みやすくCMOSアナログ回路の説明を行っている数少ない教科書の一つだと思います。仕事等でアナログ回路設計を行っていても、なかなか自分の担当外の技術は分からないものです (*1)。専門外の技術に関して、ちょっと調べる必要があるときには重宝する本だと思います。前職の日系の大手半導体メーカにも、この本を持っている人は大勢いました。

(*1) 私の専門は高速通信用のインタフェース回路の設計です(例えば、PCI ExpressとかUSB 3.0とか)。この分野の技術であればある程度は分かりますが、完全に畑違いの分野の技術(例えば、ΔΣ ADコンバータとか)に関しては、通り一遍の知識しかありません。